INTERVIEW

秋元 陸|RIKU AKIMOTO   STYLUS Japan / Country Manager 秋元 陸|RIKU AKIMOTO   STYLUS Japan / Country Manager

Q1. 自己紹介と、御社のサービスについて簡単にご説明をお願いします。

Stylus社は2009年英国のロンドンにて、イノベーションに関する調査や助言を行うことにより、企業の未来戦略や新規事業などの経営戦略をサポートするアドバイザリーファームとして設立されました。 現在、世界8カ国にオフィスを持ち、日本では2019年に法人が立ち上がり、現在私はStylus Japanでカントリーマネージャーを務めています。

Stylus社は、主に次の3領域において事業を展開しています。
1.リサーチ 20以上の業界のイノベーション事例・230以上のカンファレンス情報を、年間300のレポートに収めて配信
2.コンテンツ 毎月オンラインでWebセミナー、年2回イノベーション・フォーラムを開催
3.コンサルティング メンバーシップ参加企業限定で、各課題に即したアドバイザリーレポートを作成

Stylusは3つの情報取得網を用意しています。
一つ目はカンファレンス。SXSWやSESなど世界規模でR&Dやイノベーションの成果がお披露目されるシーンへ実際に足を運び、最新の情報を仕入れます。
二つ目は、デスク&フィールドリサーチ。オンライン上に存在するレポートやデータソースを収集するほか、NYやロンドンの街を探検し、今、どんなものに人が興味を持っているのか体験してみる「リテールサファリ」という活動も定期的に行っています。
三つ目が、エキスパートサポート。これはインフルエンサーやクリエイターなどさまざまな領域におけるアーリーアダプターとつながり、最新のニュースを収集するもの。こうした活動により、Stylus は常にリアルな最新情報にキャッチアップしています。
STYLUS Japan

Q2. 日本での事業展開について、ご説明をお願いします。

日本に法人を立ち上げて4年目になりますが、この期間において、日本と世界の価値観における平準化が大きく進んだと感じています。
日本の企業様にサービスをご提供する際にはグローバルな事例を参照することが多いのですが、これまでは「この事例は今後の日本において当てはまるのか?」「日本のマーケットの特性は異なるのでは?」という意見も多く聞かれました。しかしコロナ以降はインフレ、メタバース、ジェネレーティブAIなど世界で起きていることが一瞬で日本の市場にも影響を及ぼすようになっています。その結果、以前に比べて「外は外、内は内」という考えをする企業様がずいぶん減った印象があります。

Stylus Japanのクライアント様は、グローバル規模で事業を展開している企業様や、独自にR&D部門を持って研究開発を進めている企業様が大半を占めています。しかし現在、日本ではさまざまな業界で新しいテクノロジーの進出が盛んであり、たとえば、メタバース領域における日本の特許出願数は、世界第4位です。そのためこれからは、今後の日本を牽引していくテックベンチャーのような企業様とも、ビジネスをご一緒に構築できたらと考えています。

当社のサービスをクライアント様にご活用いただくシーンのひとつに、新商品の企画開発があります。 メーカー様が新商品の企画を考える際、たとえば「2025年春夏の洋服を作るにあたり、どのようなものが売れ筋か」という題目が出されても、何の情報もないまま検討するのは非効率ですし、予測が当たるとも限りません。そんなとき当社のサービスをご活用いただければ、「コロナが収束し、今後インフレがますます進む。それに伴い人々の価値観も大きく変わり、2025年の世界ではこういう人たちが、こういう価値観をもち、こういうライフスタイルを楽しんでいる」という予測を入手できます。そうすれば、開発メンバーで同じ世界観を共有することができ、どんな製品を作るべきかという方向性が固まりやすくなるでしょう。
ファッション業界であれば新企画を開発するリードタイムはそれほど長くありませんが、家電や車であればもっと先を見越して新製品を開発しなければなりません。そういったとき、当社が持つ世界規模でのイノベーションリサーチや、未来におけるインサイト分析などが確実に貢献できると思います。

2〜3年前に我々が主張していた未来への予測が適切であったことが、現在、現実によって証明されつつあります。その筆頭がメタバースです。
我々は以前よりメタバースやAI、ダイバーシティ、サスティナビリティというワードを頻繁に語っていましたが、当時はまだ具体例が少なく、どのマーケットにどのような影響を与えるかということを語れる識者がほとんどいませでした。しかし現在では、当時我々が語っていたワードが広く知られ、誰もが知るものになっています。
我々が予測していた未来と現実の「答え合わせ」と言えるかどうかはわかりませんが、確実に、「予測」に「現実」が追いついてきたという実感があります。
ここ数年における我が社のサービス動向についていえば、カバーする領域が格段に増えました。たとえば、5年くらい前は消費者のライフスタイルや産業ごとの分析が中心でしたが、近年ではデジタル、ウェルビーイング、ダイバーシティ、テックなど、複数の産業を横断する領域もカバーできるようになり、守備範囲が広がった感があります。
秋元 陸|RIKU AKIMOTO

Q3. 今後の事業展開について教えてください。

世界規模で少子高齢化が進むなか、今後は労働力をいかに創出するかが重要になってきます。AIが人間に代替することも増えるでしょうし、長期的な視点でいえば、ロボティクスが人間に不足している能力を補うシーンも増加するでしょう。このように近い将来では、「AIによって労働力を効率化する」と「AIによって既存の労働力のパフォーマンスを上げる」という2軸におけるテクノロジーの進化が予想されます。

よく「AIに人間の仕事が奪われる時代が来る」と言われますが、確かに業種によってはそのようなこともあるでしょう。しかしより正確に言えば、「AIに仕事が奪われる」のではなく、「AIを使いこなすことで作業効率を上げ、創造力を進化させた人が今後は生き残っていく」ことになるだろうと予想されます。
現在、ChatGPTやMidjourneyなど、AIで文章や画像を生成するツールがあり、素晴らしいクオリティのものを一瞬で作り上げるなど、確かにその能力は卓越しています。しかし、AIに能力を発揮させるには、人間がAIにオーダーするときのセンスが非常に重要。つまり、頭のなかに描いているクリエイティブをAIに生成させるには、人間サイドに卓越した言語能力やチューニングの能力が求められるのです。 クライアント様から、「我が社でもChatGPTを使いたい」「Midjourneyを使えば人員削減に効果があるか検討したい」などご相談を受けるのですが、それらはあくまでもツールであり、誰がどう使うかが肝心。「何ができるか」ではなく、「どう使うか」を議論することが今後、重要になってきます。

現在、世界的にインフレが進み、物価も上昇しています。しかし日本では所得水準が上がっていないため、今後日本では価格優位性によるブランドスイッチが多くなるだろうと予測されます。その一方、旅行、ウェルネス、フィットネスなどの領域では支出が増えると予測されており、今後企業が目先の価格競争に巻き込まれず、消費者に選ばれ続けるブランドであるためには何をしたら良いのかということを、長期的な視点に立ち、じっくりクライアント様と議論していきたいと考えています。

PROFILE

秋元 陸|RIKU AKIMOTO STYLUS Japan / Country Manager
秋元 陸|RIKU AKIMOTO
STYLUS Japan / Country Manager
外資系金融機関・コンサルティングファームにてデータ活用に関するプロジェクトや新規事業開発に従事し、現在は海外発のテクノロジーやビジネスのローカライズ及び外資系スタートアップ経営が専門イスラエル系スタートアップのOutbrain Japanの立ち上げ及び事業開発に携わり、2019年9月より世界中のイノベーション・消費動向を調査・分析するStylus Media Groupの日本支社代表を務める。